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純愛〜1981年の思い出〜

純愛〜1981年、まだ街にPUNKとスカ・ビートが流れていた頃〜
        (第22話)

飛行機の中で、隣に座り込んだUさんは、
機嫌よく嬉しそうに話続ける。

うっとおしくてイライラしてきた。

挙句の果ては、暇なキャビンアテンダントの格好の餌になり、
私たちのためにオレンジジュースのサーバーをそのまま持ってきたり
2人で一枚の毛布をかけられて
「カップルでしょ?」
と笑われた。

誤解されたくない〜〜!!あんた、人の肩に頭載せないでよ〜!!??
と叫んでも、「い〜じゃん」とのらりくらりだ。・・・・

ふつふつと腹が立ったあとは気力が失せてきた。
「こんな男のために堕ちるお前が馬鹿!」
心の中でベースの子を恫喝した。

どうして、いつも人の心はこんなにすれ違っているのだろうか。
その価値観の大きさの違いには寒気がするほどだ。
この男には、「もう、終わったこと」でしかないくだらないことを
引きずって、あの子はいまだに苦しみ続けている。

純愛ってなんだろう?
その人のための自分っていう美学ってなんだろう?
間違ってた時人はどうすればいいの?
それとも純愛なんて持てる人はこの世にほとんどいないの?・・・

答えのない自問だった。
私は
「この人の隣にいるのがベースの子ならこんな幸せはないのだろう」
と不思議に思った。
でも、それが私でしかない時、私にとってはひどい迷惑でしかない。
欲しいものが手に入らない。
欲しい人はやってきてくれない。

今まで私には欲しかった人なんていただろうか?

欲しいって何??
手に入れたいシーンって何??
できたいってどういうこと??
所詮はこんな不安定なこと。
所詮はそれで幸せになんてなれないってこと。

飛行機の中で、帰り道が同じだから、地下鉄駅まで多分Uさんと一緒だ・・
と、思ったらうんざりしてきた。・・・・

それにしても、知らせなくていいんだろうか。
知らせたくなってきた。
知らない方が彼には幸せだろうが、こんな男には知らせるべきだと思えてきた。

飛行機が千歳について、バスで札幌市内まで向かい、そこから同じ地下鉄駅まで行った。
別れるとき、もう一度頼んだ。
「ねぇ、お茶飲んで帰らない?」
「え〜、疲れたから今日はパス。」
「・・・。そお。」
だめだった。
私の胸に全部収めるしかないと決めた。

疲れて疲れて体が綿のようにくたくただった。
明日から会社だ。
札幌は秋の風が吹いて寒い。

季節を飛行機で越えてきた。
記憶も置いてきたような気分だ。

これからベースの子はどうするんだろう?
私は何から守られたんだろう?
どうしてUさんと飛行機に乗らなきゃいけなかったんだろう?
わからないことづくめの中で
秋だけは確実にやってきた。

純愛ってものに壊される人の心。
純愛を求めて偽物をつかまされるから。
誰も手にできない宝物みたいに悪い奴らが狙っているもの。

純愛を求めて行く道の厳しさをさらに知った、1981年。

        (終わり)
| エピソード・メモリー | 09:55 | comments(0) | trackbacks(0) |

純愛〜1981年の思い出〜

純愛〜1981年、まだ街にPUNKとスカ・ビートが流れていた頃〜
       (第21話)

ベースの子は泣き始めた。
しくしくという泣き方から、嗚咽に変わり始めた。

「確かに、Uさんのことは大変だったよね。
あんたホントに好きだったもんね?
でも、だからと言って、すべてを壊すこともないんじゃないの?」

「わかってる。わかってるけど、もう止められないのよ」

「これから、どうしようっていうの?
もっといい女になって、もったいないことしたって言わせるんじゃなかったの?」

「・・。ううん、これからは落ちるとこまで落ちたいの。
怖いよ?正直、すごく怖いの。ねえ、だから、ここにいてよ?」

言ってることがめちゃくちゃだなと思った。
私にはそばにいてほしいわ、ここで落ちるとこまで落ちたいわ、なんて
ありえないじゃないか・・・。

ベースの子の身の上話は、まるで、マスターに向かってされているようだった。
今まで、ここで話したことが
「ほら、嘘じゃなかったでしょ?」
と見せつけているような話しぶりだった。
それも私を寒くさせた。

「あ!!」

「何?」

「私、時間に閉じ込められてた!!ちょっと待って、最終便に間に合わない!!」

私はベースの子の話に釣られて、いつの間にか時間の感覚を失っており、
時計に気づいた時には、もう、間に合うかどうかわからない時間だった。

「私、とりあえず、走ってみるけど、間に合わないかもしれない。」

「うん、間に合わないってことは、ここに戻ってくるってことでしょ?」

私はいつの間にか「東京に姉がいる」事実を忘れていた、それしかないと思っている。

「うん、間に合わなかったら、行くところ無いから戻ってくるけど・・。」

ベースの子はにやりと笑った。

「じゃあさ、戻ってくるからここで待ってた方いいんだね?
だって、間に合わないもん、それ。」

私はとにかく焦りながら、店をバタバタ出た。

「間に合わなかったら戻ってくるけど、間に合ったら帰るわよ?
当たり前でしょ?!じゃあね!」

それから、走って、電車の中でも走って、新宿のコインロッカーに
走って行って、そこからまた電車に飛び乗って、モノレールを目指した。

モノレールが羽田について、最終便の確認に各社のカウンターをかけずり回った。
「最終の1便」に何とか間に合った。席も取れた。

「良かった・・。今日中に札幌に帰れる。・・」
ほっとした。心底、ほっとした。
搭乗ロビーに入って、歩いているとぎょっとしてしまった。

「Uさん!!」

なんと、同じ便にUさんが乗るとは。
そして、こんなところで出会うとは運命の偶然かひどすぎる展開だった。

「あたし、Uさんに捨てられてから堕ちて行ったのよ・・。」
さっき、ベースの子はそう泣いた。

だが、目の前のUさんは、
「あれ〜???こんなとこで会うなんて〜!」
と茶目っ気たっぷりに笑っていた。
ひどく疲れが押し寄せた。

「なんで、こんなところでサンドイッチなんか食べてんの?」
私の第一声がそれだった程だ。

「え〜・・だって、晩御飯食えないだろ〜??」
いつものように明るく笑っているUさんと話すのが心底嫌だった。

「なんで、こんな最終便にいるの?大学はもう始まってるでしょう」
「う〜ん、結構とっくに始まってるけど実家に長居しちゃった。
で、帰りに渋谷のゲーセンによって遊んでたらこんな時間になっちゃって〜」
「東京出身だったっけ。なんで渋谷のゲーセン・・一人で遊んでたの?」
「そう、一人で遊んじゃった〜」

ムカついてきた。
男に心底不快感を催した。
女が泣いてるとき、こいつら、いつも笑ってないか。
なんでこんなに、他人事なんだろう?
友情めいたものや責任感すらないの?

「私、あの子探しに東京に来てたの、よかったら話聞いてくれない?」
え〜〜!!!???とUさんはオーバーアクションをして避けようとした。
「ごめん、それは勘弁!!もう、かかわりたくないの!」
「何それ。」
「頼む!!」
手を合わされてしまった。
呆れて空化しそうになった。
私はあきれてものも言えないとはこのことだ・・と思った。

別れれば、それで縁まで切れて責任も切れるのか・・・。

機嫌よく飛行機に乗ったUさん、
ずっしり重い心で乗った私は対照的だった。
席が離れていて良かった、と思ったら、
いたずらっぽい顔で隣にやってきた。
「自分の席にいなさいよ?」
「いいよ、こんなにすいてるんだから、大丈夫だって〜」
私の心はぶちぎれそうだった。

お前みたいな男がいるから、あんなことが起こるんだ!!と
叫びたい半面、
「どうしてわざわざ同じ便?」
と、分かれなかった。

      (つづく)
| エピソード・メモリー | 07:21 | comments(0) | trackbacks(0) |

純愛〜1981年の思い出〜

純愛〜1981年、まだ街にPUNKとスカ・ビートが流れていた頃〜
        (第21話)

お茶が入った。
少しずつ、このベースの子の心もほぐれていってるようだ。

「どうして、家出なんかしたの?」
「それは・・お母さんに大麻の鉢が見つかって警察に連絡
されそうになっちゃって・・・。」
「大麻?どうしてそんなもの。どこから?」
「…。言えない。」
「まさか、母親が本当に通報するわけないでしょう?
あなたを脅かすためにわざとそう言ったんでしょう?
それなのに大麻の鉢、処分できなかったの?」
「ううん、もう、お母さんの脅し方が怖くて夢中で。」
「じゃあ、今からなら家に帰れるんじゃないの?」
「ううん、会社も裁判になるって言ってた・・。」
「ああ、急にやめて仕事が一時的に出来なくなったからでしょう?
自動車教習所だったよね?」
「だから、もう、帰れない。」
「そんなことないよ、その話はなんとかなったみたいだよ?」
「…。でも、あたしも、中途半端はいやなの。」
「…でも、ここでどうするの?仕事してもすぐお金は入らないでしょう。」
「でも・・。ここで頑張るしかない。」
「誰も知らない人ばかりの中で?」
「結構、友達できたんだよ?なんとかなりそうなんだ。
割と今、有名。北海道から出てきたあたし。」
「でも、マックのバイトも辞めたんでしょ?仕事は甘くないって。」
「あんた、変わらないね。こうしていると札幌にいるみたい。」

ふっと、ベースの子の能面のような顔に子供らしい笑顔が戻った。

「ねえ、ここにいて。あたし、一緒にいたら絶対楽しいと思う!
ここ、結構いろんなことがあって刺激的で楽しいし、いい街だよ?!」

急に、甘えが出てきた。

まだ、何一つ謝っていない。
さっき、騙したことも、札幌からのすべても。
やれやれ・・、と思った。
心を閉ざすか、甘えるか、この2種類しかない女は人に心配される。
とてもズルイと私なんかは思う。
誰が私の努力や苦労を分かってくれるだろうか。
この子のことはだれもが心配してきた。
私は、ため息が出てきた。・・・・・

「ねえ!そうだ、私の町、高円寺いいとこいっぱいある!案内する!
ご飯食べに行こうよ?」
「そうだね、お昼もいいだけ過ぎちゃったね。私が御馳走するわ。」
「いいよ、私の町だもん、私がする!」
「いいから、甘えなさい?」

そう言って外に出た。

まさしく、自分の住んでる町に親が来たかのように、得意げに案内が始まった。
「ここは○○の店!!○○が凄く美味しいの!!」
「ここは、結構、友達の○○と来るお店!高円寺って安くておいしい店が
いっぱいあるんだよ?!」
その表情は、幸せそうな笑みに満ちていた。
「それから、一押しはここ!!ここの天津丼は最高です!!」
小さな昭和時代そのもののようなオレンジと黄色のビニール椅子があるような
ひなびた食堂に入った。
「じゃあ、お勧めの天津丼をもらおうか。」
「うん!ぜ〜ったい美味しくて感動するから!!」

まさしく札幌時代の笑顔に戻ったこのベースの子は、はしゃぎが止まらない。

天津丼は値段の割には美味しかった。
そのあと,「BOY」に行こう!と誘われた。

「昨日、来たんだよ?ここ。」
「へえ〜、なんで?」
「彼と待ち合わせた。」
「それで、マクドナルドのこと聞いたんだ?」
「うん、まあね?」
「結構、あの人には会ったよ。でも、残念ながらあんたの話はしてなかったよ?」
「そう?いいんじゃない。もう、関係ないんだから」
「そうだよね、関係ないもんね。でもあの人、ここでは顔だわ。すっごい有名人。
知らない人がいないんじゃないかっていうくらい。」
「そうなんだ?」
「うん、だから、私なんかも怒られたの。なんで、知りあいなわけ?!とか言われて。
ヒステリックな取り巻きが多いみたい。それから、奥さんとはアツアツだって。
綺麗な人だって言ってたよ?みんな。」
「そう〜。そうかもしれないね。」
「で、うんと、この間ちょっといろいろあってもう合わないかもしれない。」
「ふ〜ん。トラブル?」
「ううん、なんか、ちょっと・・。」
「そう。ま、今は解決したなら聞かないけど。」
「あんた、ホントに変わらないね。。。。このままここにいてよ?」

「BOY」について、席につきながらそう言われた。
今日はカウンター席だった。
マスターとベースの子が挨拶をしている。
私は黙っていた。

「私さ・・。こんなこといまさらって思うかもしれないけど・・・
堕ちて行った理由ってUさんなの。
Uさんに捨てられてから堕ちていったの・・。」
ベースの子は涙ぐんだ。

結局は、この子も"純愛"を失った女だったのだ。・・・・

この人のために美しくあろう、凛としていよう、という思いを失くする時、
人はあっけなく堕ちて行くんだと感じた・・・・。

      (つづく)

| エピソード・メモリー | 09:29 | comments(0) | trackbacks(0) |

純愛〜1981年の思い出〜

純愛〜1981年、まだ街にPUNKとスカ・ビートが流れていた頃〜
        (第20話)

ひとりで煙草を吸っていた。

朝の神社の境内。
ここは姉のアパートのすぐそばの小さな神社で
私の喫煙場所だった。

朝靄の中で、
「今日が最終日、最終の飛行機までにやるべきこと」
を考えていた。

なんとかなるだろう、ここだってそんなに悪いとこじゃない。
たくさんの家並みがみえる。
たくさんの人の暮らしと朝がある。

姉のところに戻って、挨拶をして荷物をまとめた。
「何にもできなかったけど中華街にいけてよかったね。」
姉は笑顔だった。毎日、真夜中近くに帰ってくる私に何も言わなかった。

荷物を持って出る前に、姉が出かけて行った。
「さよなら。」
そう一足早く告げると帰る日なんだ・・と実感が湧く。

とぼとぼと新宿に出て、荷物をコインロッカーに預けた。
それから中央線に乗る。

高円寺に着くと、線路が暑さで曲がって見えた。
かげろうがたっていた。
南口に出て、マクドナルドを探した。
やっと見つけて、店に入る。
ベースの子の姿はない。

「シフトもわからないまま来たからな・・。」
そう思いつつコーラを買ってしばらく待った。
どこにもいない。
交代の時間らしく、挨拶をして入れ替わるスタッフが何人もいた。
ちょっと期待をして目を凝らして見たが、居なかった。
「う〜ん。また、あとで来るか・・」
先にアパートを探そう、と思い立ち上がったら、
一人の女の子が床をモップで掃除し始めた。
「あ!」
まぎれもなくベースの子だった。

声をかけると、すごく暗い目で私を見たあとすぐ床に目を落とした。
「何しに来たの?観光?」
え?…と、返す言葉に詰まった。
「う・・うん、そうだよ?」
こんな大勢の人の前で、事情を話すわけにはいかない。
「だったら、忙しいの、帰ってくれない?遊びに来た人と話す暇なんかないから!」
そう言ってモップを動かし続けた。
「それでもね、・・会いに来たんだよ?」
と言ったら、しばらく考えて、ベースの子は
「だったら、ちょっと待っててくれない?」
と言ったので、近くの喫茶店で時間を潰して待っていた。

しばらくしてまた店に行くと、姿が見えないので、おかしいなと思って
カウンターに聞きに行ったら、
「あ?あの子なら帰りましたけど?」
と言われてしまった。
「騙された!」と気がついた。

でも、結局、会いたくないのか、・・と迷惑をかけたことにも気がついた。
バイトは今日が初日のはずだったから。

それで、近くの喫茶店で書いた手紙を持って直接アパートの郵便受けにとどけること
にした。
とにかく、家は確かめておきたかった。

ところが、炎天下いくら歩いても見つからない。
住所が途切れるところが一つだけあって、それがそのアパートなのだ。
ここまでが11番地、なら隣が13番地になっている。
いくら探してもそのからくりが分からなかった。
駅前の交番に何度も戻って地図を開いてもらったがわからなかった。

足には靴ずれが起きて血だらけになっていた。
痛くて歩けないので、駅前の履き物やで、つっかけサンダルを買って、
サビオを2枚もらった。

それから、また戻って探し続けた。
私のいいところは忍耐強さだ。それと決めたことは全うすること。
何が何でも探す!と決めて、またあの番地の谷間に戻った。
間に木があった。

その木の間を思い切って突っ切ってみた。
入れた。
小さな道のようなものがあり、集合住宅とも言い難い、見えづらい家が一軒あった。
そこに番地が書いてあり、12番地、みたいな表示があり「見つけた!」と思った。

ドアを開けると靴だらけだった。
部屋はドアのすぐ前らしかった。
引き戸の小さな部屋だ。番号があったので確認した。

ドアをノックすると
「どうぞ。開いてるから。」
と声がした。

「あんた・・。」
ドアを開けて入ると、こちらも見ずに、
「来ると思ってた。」
と言い捨てたベースの子がいた。
「どうして、逃げたの」
「別に。辞めて来たんだ。面倒臭いから」
「私が行ったせい?」
「そうかもね」
「でも、なんで、待ってて、って嘘ついたの。ずっと待ってたんだよ?」
「あんたが馬鹿だからじゃない?」
「・・・・。どうして強がるのよ」
「別に。まあ、お茶くらい飲んでいけば?」
ベースの子は立ち上がるとやかんに水を入れて火にかけた。

テーブルの上に、「ベーシストの必需品、爪切り」が置いてあった。
そして、見慣れたベース・ギターが1本。
あとは何もない空間だった。

「どうやってここにたどり着いたの?お金はあるの?」
親のように、聞いてしまったが、返事はなかった。
「高円寺に来ようと思ってた、ただそれだけ」
「マックに居るって教えてくれたのは、あの彼だよ?
会ったんだって?」
「そうなんだ。そう、何回か顔合せたわ。で、話聞いてくれた。」
「そう、よかったね。ここ大丈夫なとこなの?」
「・・・・・。」
返事したくないことは極力無視された。

でも、なんとか暮らしているようでほっとした。

これから、バイトをしてもバイト代が入るまでの間のお金はあるんだろうか?
「・・・・。」

本当に、何を聞いても黙りこくる。

      (つづく)
| エピソード・メモリー | 10:54 | comments(0) | trackbacks(0) |

純愛〜1981年の思い出〜

純愛〜1981年、まだ街にPUNKとスカ・ビートが流れていた頃〜
       (第19話)

「BOY」という店は、よくあるロック系の
常連さんが来るところらしく、新参者には
敷居の高いというより拒絶感の強いところだ。

カラン・・、と入り口の鈴が鳴って、
中を見渡すと、狭い小さなカウンターに
ほんの少しのテーブル席があるだけの
暗い喫茶店のような店だった。

黙って、席につき、コーヒーを頼む。
煙草を吸いながら、漫画本をじゃらした。
それでも1時間でさえも長いのに、
1時間半たっても2時間たっても彼は現れなかった。

暗い空間をぼんやり見つつ、
「そこがトイレだろう」
と思った。
まるで、「ゲルニカ」の絵に出てくる牛の目が
山ほど空間にあるような、嫌な暗さだった。
「新宿ロフト」のトイレはトイレットペーパーが散乱して
足の踏み場もないようなところだったが、
何の邪気もなかった・・と思い返す。

「トイレに勇気を出して行ってからここを去ろう。」
と決意して、その嫌な暗闇に入って行って、
いつものことなんだけど、嫌なところでは
「息をなるだけ止めて」
トイレを終えた。

さあて、と。

なにか事情でもあったんだ、帰ろう。
そして、
明日、駅前のマックにまた来よう、と思って
煙草を手にバッグを持って席から立ち上がった時、

「カラン」
と入り口の鈴が鳴った。

さっきとは打って変わって焦燥しきった彼がいた。

「あ・・・。」
そう思って何か言おうとしたが、入り口でマスターと常連に捕まった彼は
いろいろ話しかけられていた。
黙って待っていたが、声をかけた。
「今、帰ろうかと思ったの。ずいぶん遅かったのね?」
「え、あ〜。遅くなった?そお?」
顔色も悪い。さっきとは別人の低い声だ。
なんだかうんざりしつつも「何があったのか」とまた考えた。

「ごめん、ごめん、待たせたんだっけ〜?」
私の首に手をまわして陽気にふるまうと、常連から「え〜!!?」
という声が上がった。
「何、その子〜!?」
それをなだめる様子もなく、
小声で耳元でこう言った。
「いいから、とにかく俺について合わせてくれる?」

それからまた、仰々しくカウンターの人達と話を続けた。
マスターが、にやついて、
「今夜はその子とお楽しみかい??」
と言った。
「ああ〜、そうだよ。」
と彼は答えた。
私もそういう女の振りをちょっとだけした。
「きゃ〜!!ゆるせな〜い!!」
常連の女たちがでかい声で叫んでいた。

次の瞬間、あっという間にドアを開けながら私の首根っこを捕まえたまま、
肩を抱いて強引に店を出た。
彼は軽く挨拶したが、私は振り返らない方がいいみたいだった。

店のドアが閉まると、突然、手は離れて、彼は早足歩きになった。
「ついてきて。」
そう言ってるように見えた。
必死で階段を降りる。
ものすごい速さだった。
道路に出てから、彼は1〜2メートルの距離を保って歩き続けた。
私も黙って、それくらいの距離を崩さないように必死に歩いた。
会話はなかった。
何が起こってるのか分れなかったが、とにかく
「黙ってついてきて」
のひとことについて行くしかなかった。

そのまま、駅前のタクシー乗り場についた。
タクシーがいた。ドアが開いている。
すると彼は立ち止り、ようやく振り向いて天使のように微笑んだ。

「もう、大丈夫。俺、あんたのタクシーが消えるまで、ここで立ってみてるから。」
「え?・・・」
「安心していいよ、ここから先は俺が守るから。」
「?????」
「とにかく、間に合ったみたいだ。よかったな。」
「あの・・。ありがと、よくわからないけど、助けてもらった?
大変なことがあった??」
「…ちょっとな。それで、来られないかもしれなかった。よかったよ、来れて。」
「そうだったのか・・。ありがとね、これで本当に最後だね?」
「うん、元気でね!!俺、楽しかったこと忘れないから。」
「ありがとう、私も楽しかったこと忘れない。」
「どこまで帰るの?」
「新宿。」
「そっか。じゃ、大丈夫だよ。俺、タクシーが見えなくなるまでここに立ってるから。
早く乗って?」
「うん、それじゃあ、お休みなさい、ありがとう。」

彼の立っている場所は突然、スポットライトが当たったかのように白く輝いていた。
そして、今まででみた中で、一番優しい顔をしていた。

タクシーは走り出した。
振り返ると、彼がずっと同じ場所に立っていた。

「この道は俺が守ろう」

そんな顔をしていた。そんな声が聞こえた気がした。
「大丈夫、もうすぐ西新宿の高層ビルが見える。そこまで行ったらもう安全だ。」
そんな声も聞こえた気がした。
しばらく走って、本当に高層ビルが見えてきたとき、プツンとその声は切れた。

そしてあたりに何とも言えない悲しさが漂った。
それは、8月8日のタクシーの中に似ていた。

「何だろう、わからないことだらけだ。」

泣きたい気持ちだった。
一人になった。また、一人になった。
明日は自分ひとりで戦おう。
何と戦ってるのかはわからなかった。
怖いのはいつだって人間だかもしれない。
私に対して何かの策略を持つ人たちだかもしれない。
それでも、
ベースの子のように、逃げたりせず、私は戦おう、と
彼の天使が舞い降りたような姿を思い出して決意した。

人には、ここまで、という限界がある。

この先は一人で歩いて行くんだ。

     (つづく)
| エピソード・メモリー | 11:32 | comments(0) | trackbacks(0) |

純愛〜1981年の思い出〜

純愛〜1981年、まだ街にPUNKとスカ・ビートが流れていた頃〜
       (第18話)

新宿駅から中央線に乗る。
高円寺は初めてだった。
「行けばなんとかなる!」
といつものように下調べもしない。

駅について、暗闇のホームに降りた。
ホームに明かりはあるけれど、その先は真っ暗闇だ。
電車からホームへの隙間に引っかからないように、
エイッ!と、飛び越えた。

まず、高円寺南に出なくちゃ・・と思った。
住所を頼りに、出口「南」と書いてある方から外に出る。
「あちゃ〜・・。思ったより住宅街だ。」
南口からの風景は見事に真っ暗だった。
駅前の数件ある店の向こう側はもう闇だった。

でも、持ち前の粘り強さで、一軒一軒住所を確かめながら行く。
そうして、だいたいのエリアを掴んだら、今度は詳しいビルや
枝番を探していく。
15分くらいかけたらやっとスタジオが見つかった。

中に入ってみる。
練習中のバンドしかいなさそうな、よくあるスタジオだ。
音がしている部屋は一つだけだった。

そういえば、彼と別れてから、私はテープを聴いた。
聴いてびっくりした。
ホントに、普通のバンドで、しゃがれた声の男ヴォーカルの人が
特徴と言えば特徴なのだが、それが安くさいとも受け取れる、
「ちと、ムード歌謡」に似た、歌が絡んでくるバンドだった。
決して下手ではないのだが、うまいともいいようがなかった。
ただ、ドラムが毛並みが違ってもったいない気がした。

練習中なので外で待った。
窓からちょっとのぞいてみたら、ドラムセットに彼がいたから
待つことにした。間違いなくここで良かったようだ。
しばらくすると、ヴォーカルの人が煙草を吸いに出てきたので
声をかけた。
「あ?・・いるよ?あいつ。会いにきたなら入れば???」
あっけなくそう言ってくれたが、自分もバンドをやっていた以上、
練習に知り合いが来て、ごたつくのは気分を害するので好きではなった。
単純な聴衆が窓の外につくのは大歓迎だったが、関係者が一番いやだった。
「でも、練習中ですよね?切れ間になってから入らせてもらいますよ。」
そう答えると「なんで?」とはてな?な顔をされた。
「そう?〜でも、もうすぐ休憩だから、みんな出てくると思うよ?」
ヴォーカルの人の言う通り、すぐがやがやみんな出てきた。
「この人、あいつの知り合いだって。」
「へえ〜」
メンバーに一人一人挨拶をしてから、もう一度、
「私が入ってもいいですかね?」
と聞いて、全員の顔を見てから一人残ってる彼のいるスタジオのドアを開けた。
オープンにするため、わざとドアを開けっ放しにした。
バンドのメンバーを外に出して、2人でスタジオにこもるのも決して
いい気はしないからだった。

「来たわよ〜?出れるならこっちに出てきてくれない?」
「あ!」
「ね〜、だから、こっちに出てきて?」
「あ〜!いいって、こっちに入って?」
「・・そおお?」
仕方なく中に入る。

それなのにわざわざ一回ドアが閉まってから、外に出た。
なんなんだろう?
「あ〜!ほんとに来た〜〜!!」
満面の笑みだ。
「北海道の女の子ってワイルドなんだね〜!あの子といい、きちゃうんだもんな〜」
「そう、そのこの話、聞きに来たんだった!」
「あの子?う〜んとね、明日から、駅前のマックでバイトするって言ってたよ?」
「え〜?ホントに〜?!」
「うん、いいニュースになった?」
にこにこしているが、そんなこと電話で言えばいいのに・・とも思った。

「あのさ、駅前のガード下を行くと、「BOY」って店があるから、そこで待ってて
くんない?」
「え〜、なんで。」
「終わったら行くからさ〜」
「・…。どれくらいかかるの?」
「1時間くらいで行くからちょっと待っててよ!帰らないでよ??」
「う〜ん、わかった。その店ってすぐ見つかる?」
「ガード沿いに行けばすぐわかるよ。」
「そう、じゃ、待ってるね。」
「うん、んじゃ、あとでね♪」
妙に機嫌がいい。
それにしても、なぜスタジオに来なければならなかったのか?と思ったが
バンドのメンバーがみんなまともそうな敬語を使ってくれる人で
その人たちに会えただけでも良かった、と思った。

意味は分らないことばかりだけれど、
何重にもかぶせたフィルターの中で、話を続けていくしかないような
何かに追われているような、変な感じだった。

それから、私はガード下の店「BOY」を見つけて、
そこで2時間も待つはめになった。・・・・・・

     (つづく)
| エピソード・メモリー | 11:14 | comments(0) | trackbacks(0) |

純愛〜1981年の思い出〜

純愛〜1981年、まだ街にPUNKとスカ・ビートが流れていた頃〜
        (第17話)

翌日は私の誕生日だった。
夕べ姉のアパートの暗闇に忍び込むように戻って
眠っていた私を朝から姉が起こす。

「今日って、あんたの誕生日でしょ?
それで、ご馳走するから、中華街に行こう?」

「え〜?中華街って横浜でしょ〜?
私、行くとこあるんだけどな〜、今日・・」

「あ、いいって、午前中しか私も時間取れないからすぐ帰ってくるからさ?」

「そお?・・それはありがとう・・」

なんだか、肝心のことには何一つ行動を起こしていないまま、
「勝負は今夜からだ。」
と、心に決めた。

姉は何も知らずに、嬉しそうだ。
おいしいと評判の店を案内するそうだ。
2人で、渋谷から東横線に乗る。
この電車は途中から風景が変わる。
乗ってる人も町並みも、リッチな風景に変わる。
セレブには、今一歩かもしれないが、
十分新宿方面の雑多な安さとは違うものだった。・・・

車内で、何か急に引っかかった。

「ああ、見られているのか・・・」

私はやっぱり浮いているのだ。
その頃流行っていた、ハマトラやコンサバ系の髪の長い女たちが
ひそひそ彼氏と話している。
私を指さして笑ってるカップルもいた。

「フン・・。」

私は心の中で、
「なんで、姉じゃなくて私〜?」
とか思っていた。姉は地味が好きな人だ。

すると、姉が話しかけてきた。
小さな声で、
「ねえ〜、みんな、あんたのこと見てるよ〜。
恥ずかしいから私、離れたところに居るから。」
と言って、遠ざかって行ってしまった。

「ひえ〜。孤独〜・・」

みんなの視線を浴びながら、
「何?私の何が何なわけ?!」
と心の中で叫んでいた。

中華街についても、つまらなかった。
いつもはわくわくするのに、
あれらの山下公園通りにいる女は皆私の敵に思えて
気が滅入った。

カウントダウンが近付いてきた感じでもあった。

中華料理屋で姉に
「お誕生日、おめでとう!」
と言われても、なんだかぱっとしなかった。

そして、美味しくなくて、全部残してしまった。
あの油っこい中華のせいだろうか、食欲がない。

いいや、暑いんだ。
今、気がついたけど、私は疲れを引きづっているに違いない。
いろいろ言い訳はあるけれど、
「いやなことは先にやってしまう」性質の自分にとって、
後回しは結局よくなかったんだと気がついた。
姉に申し訳なかったが、姉は気がついてなかった。
時間のない中で、中華街で食事ができたこと、を喜んでいた。
そして私の誕生日を祝えたことも。
いい人だな〜わがままな妹に対して、いつもいい人だ。
帰り道、私は決心していた。

彼に、電話をしよう。

絶対にしたくなったけれど、そこから始めるのが一番いい。
それから、高円寺に乗り込もう、と決めた。
姉はバタバタと出かけてしまい、私は一人になって考えていた。

そして、電話をかけに公衆電話に行った。

「もしもし・・」
奥さんが出てしまった。
最悪のパターンだと思った。
「あのう・・」
彼がいるかどうか聞いてみたら、途端に機嫌が悪くなった。
「電話!」
どうやら隣にいるらしい。
「もしもし」
おお、懐かしい声だ。やっぱり本物の電話番号だった。
「あの〜・・私、札幌で一緒だった女の子です、憶えてますか」
「あ〜〜!!びっくりした〜!今、・・イテッ!どこ???」
どうやら奥さんにつねられているらしい。
「今、東京。実は、リーダーに聞いたんだけど、あのベースの子の
行方を知ってるかもって思って・・。突然電話してごめんね。
奥さん怒ってるでしょう?
それで、何でもいいからもし知ってることがあったら教えてほしいの。」
「え〜!!東京に来てんの?!すげ〜!!したっけ会おうよ?!」
「え?だって、今奥さんが隣にいるんでしょ?そんなこと言ったらだめだよ〜」
「いてて・・。いや、いいんだ、ちょっと待ってくれる?」
電話の向こうで言い争っているのが聞こえた。可哀想に、と思った。
「もしもし、いいからさ、いいから、今日会おう?俺、今日練習なんだ?
バンドの練習に来て?場所?高円寺、わかる?」
「え〜?練習に〜?ホントに、知ってることあったら電話で十分なんだよ〜?」
「いいから、場所いうから来てよ?時間はね、8時半頃来て?」
「そう〜?いいんならいいけど、わかった、なんとか探していくから。」
「んじゃ、後でね!楽しみに待ってるよ!」
笑顔〜な電話だった。・・・・・

「高円寺であの子に会ったって言ってたけど・・夜になると探すのは難しそうだな。」

結局、その日は、彼に会って情報をもらって、翌日飛行機の時間ぎりぎりまで
高円寺であの子を探すことにした。

「今度、会ったら、お礼とかで体の関係になるのかなあ〜???」
昨日のヤシロのことを考えるとありえないでもなかった。
奥さんにいろいろ言われて、女の子と会うと知られた以上、
もう、それくらいは後で怒られてもいいかな?と思うかもしれないし〜・・
とも勝手に考えていた。・・・・・

恩返しが体と言うのもどうだろう?
けど、夜の高円寺、バンドの練習に乗り込んでいくってことは
なんでもありの心構えが必要なんじゃないだろうか???

暗くなってから、新宿駅に向かいつつ、
「何か得体のしれないざわついたもの」
が久しぶりにやってきた。YAMAHAで感じたものに似ていて、
新宿駅の東口から、それが始まっていた・・・。

     (つづく)
| エピソード・メモリー | 11:52 | comments(0) | trackbacks(0) |

純愛〜1981年の思い出〜

純愛〜1981年、まだ街にPUNKとスカ・ビートが流れていた頃〜
       (第16話)

荒川沿いに走って、ヤシロのアパートについた時には
すっかり日が暮れていた。

部屋は真っ暗だった。
「明かりつけてよ〜。その前に窓開けよう」
「・・・・・。」
ヤシロが黙っているので放っておいた。

何で明かりもつけないのよ?!
友達だと思っていたらそうじゃないわけ?!

私はあからさまにまた腹が立っていた。
そんな自分がおかしくてひとりでウケた。
悪いけど、ヤシロは男という類ではなく(?)
なんか、不思議な生き物であって、かんけーない、という感じに
居心地の良さを見出していたからだった。

「ね〜、足立区って、田舎ね〜?
虫の声と盆踊りの音しかしない〜・・。
あ〜、夏って感じ。
・・・で、なんであんた、明かりつけたくないの?」

「え〜。それってポーズ?それともホントにダメって話?」

「あんた!まさか、本気で女連れ込んだとか思ってんの?!」

「え〜・・。違うの」

「馬鹿!!あんたね?だいたいね、考えてることが馬鹿!!」

「なんで〜?!」

「いい、よく聞きなさいよ?!
あんたは、函館から出てきて、東京で暮らしているわけ。
おまけに、「新宿ロフト」の従業員のバイトもしながら
学生生活を送っているわけで、チャンスはゴロゴロあるわけ!
なのにね?」

「なのに・・って、何。なんで怒られてんの。」

「いいから聞きなさいって!
なのに、同郷の北海道の女に手を出してその安い思い出を東京で
持ちたいってのがそもそもの間違い!!
あんた、意識改革が必要だわ?!」

「・・・。なんだよ、それ。」

「要するに、あんたは、東京に来たことで、できるあてもなかったような女と
できることがアチーブメントなのよ?!わかる?!」

「…ち。何だよ〜それ〜駄目にしてももっといいようがないのかよ〜」

「だって、友情すらないのに、気持ち悪いこと考えるんだもん〜あんた〜」

「…。ひっでえ女。フン、わかったよ!したっけ出よ?」

「え〜、そのためだけに来たのかここ?」

「あったりまえじゃん!!」

「あんたね〜、危ない人だよ〜生き方〜」

「フン、とりあえず送って行ってもらえるだけ有難いと思って!」

「あ〜あ、有り難い・・ってなんでここまで来たっていう方強くな〜い?」

「フン、あんたなんて、そこの中華料理屋、あそこすっげ、油ぎってる
やっすい店だけど、そこでよかったよね?!晩御飯!」

ヤシロはだんだんヒートアップしてきてようやくヤシロらしくなってきていた。

「え〜、それって割り勘とかいうんでしょ〜?」

「とりあえず、いっちばん安いのならおごってやるわ、
ここ、地域でいちばん安い店だから!」

「ゲゲゲ。あんたって執念深い人だね〜」

「あんたも何の気してるんだか、ひとのこと好き勝手言って!!」

そんなわけで、そのあとは、汚い中華料理屋の小上がりで
油っこいご飯を食べる羽目になった。

「あんたってやなやつ〜」

「よせよ、あんたほどじゃないよ」

「でもご飯もこんなに差がつくんでしょ〜?
いいことあったら何食べさせてくれたの〜?」

「…。結構高いものを予定してました。」

「ひえ〜〜!!」

気のいいやつなのか、似た激しさなのか分らないが、
怒ってるのか怒ってないのかもよくわからないが機嫌は悪そうだった。

それから、
また、新宿まで走った。

ところが途中でヤシロは「ハライタ」を起こす。

私はそれを捨てて歩いて帰ってきた。
もう新宿に入っていたからすぐ近くまで来ていた。

「天罰だ。・・ざまあみろ。油っこいご飯なんて食べさせるからだもん!」
と思った。

私って・・こんなことができなくていつも責任にがんじがらめだった。
歩きながら「ヤシロを捨てれる自分」がすごく楽に思えた。
それは「ヤシロと文通してきて」わかりあっている何か、でもあって
安心感と言っても「クラスメイト気分」に似たものだ。・・・・

でも、
私にはクラスメイトがいない。
なんでかいない。
捨ててこれる人、なんていつも一人もいない。
がんじがらめのような責任と気遣いに悩まされる。

そうとぼとぼ歩いていたら、ヤシロが追い付いてきた。

「あ〜、居たいた!ひどいな〜トイレ行ってる隙に居なくなるんだもん〜」
と、バイクを引いてきた。

「え〜、何で来たの〜?あそこで帰ってよかったのに〜」
「え、・・?」
「もう、すぐだから、姉のアパート。」
「あ、じゃ、俺、お姉さんに挨拶しよっと。」
「馬鹿、もう寝てるでしょ〜、遅い時間なんだって。
あの人は朝が早いの!」
「え〜、じゃ俺、これで帰るの〜?」
「そういうこと!」
「ひっで〜」
「まあ、いい暇つぶしにはなったよ、ありがとね。
ちょっと嫌なことがあって、今回はへヴィな東京なんだよ〜」
「ふ〜ん。」
「まあ、南青山でお茶したしかなかったような今日だけど。」
「あ、途中ねえ〜、ちょっと寄ったもんね〜?」
「あんた、今日は何か全部が不似合い。」
「ぎょぎょ?」
「これからは気をつけて女の子誘いなさいよ?
私、あんたにもいい女の子を見つけてほしいよ。
せっかく東京にいるんだもん、いい思い出できるといいよね。」
「・・・・。それがなかなかね。」
「何言ってんの〜頑張りなさいよ〜!
んじゃ、今日はありがとね!また・・はないかもしれないけど〜、
気が向いたらまたね!?」
「うん、じゃ、気をつけて帰って。
なんか、ぱっとしたことなくてごめん。」

ヤシロがバイクを引きながら帰って行く。
大きな通りに出るまでは夜中だからエンジンはかけない。

その後ろ姿を見送りながら、
「男と女の関係なんて。」
と、思った。

ずっと、友情のあるままでいたい。
ずっと、このままで、相手の裸とか考えずに笑っていたい。
そう、思いながら歩いた。

    (つづく)
| エピソード・メモリー | 11:28 | comments(0) | trackbacks(0) |

純愛〜1981年の思い出〜

純愛〜1981年、まだ街にPUNKとスカ・ビートが流れていた頃〜
        (第15話)

エアポート・リムジンに蒸されて、とぼとぼと到着ロビーを歩いた。
何も見ないまま、まっすぐモノレール乗り場に行く。

モノレールの荷物置き場は嫌いだ。

座席と荷物置き場のバランスがこんなに悪い乗り物ってあるんだろうか、と
いつもげんなりする。
でも、海が見えてくると、景色の違う世界にしばらく浸る。

東京は面白いところだ。
北海道とは全く違う。何がと言えば全部違うのだ。
空気も景色も季節も全部違った。
人の流れも違うし、ファッションも習慣も全部違う。
その中で、今度は私の方が浮いて見えるなあ〜と感じる。
昨日まで歩いていた札幌とは周りの目も違っていろんな人に見られてしまう。
私は、ひどく違和感を感じるのだが、いつもはそれが心地よかったりもした。

今日の目的はまだ、高円寺ではなかった。
気分的にまだ、そこに乗り込む気持ちができてなかった。
テンションをハイにしないと、電話ひとつできないと思った。
戦いの気分だ。
足をすくわれたらあっという間にどこに流されるのか分らないと思った。

実は、東京には姉が住んでいた。
まず、姉のアパートに行く。
姉は演劇の学校に、OLをやめて、自分のお金で通っていた。
父親が東京に寛容なのも、姉がいるからだ。・・・・

姉のアパートに勝手に着くと、荷物を置いて、近くの公衆電話から
東京の少ない友人のひとりに電話した。
そいつは、新宿にあるライブハウス「ロフト」でバイトをしているので知り合った。
遊びに行けとその時私に言ったのはベースの子だった。
「東京に行くんだって?そしたら「新宿ロフト」に行ってきてくれない?」
と言われて、その時しぶしぶ行った記憶がある。
ヤシロというその男は函館出身だ。
「ロフト」で、そいつと口のたたき合いになってなぜか仲良くなって、
「ペンフレンド」になった仲だった。

ヤシロはきれいな字を書く。
大学生だ。
信じられないくらい見事な手紙を書いてくる。
それが当人に不釣り合いですごくおかしい。

「あ〜、あたし。今ね〜新宿。」
(姉は新宿に住んでいた)
「あ〜、久しぶり〜、したっけ、迎えに行くわ」
「そ〜お?」
と、まあ、愛想のない関係で、何と表現したらいいのか分らない関係だった。

ヤシロにあうことで、ワンクッション置いてから行動に出たかった。
それくらい、東京に着いたらへこんでしまっていた。
「ヤシロでもいじめて、嫌味を言われて戦わないとダメみたい。」
そんな理由でヤシロは呼ばれた。

ヤシロはほどなくしてバイクでやってきた。
「あんた、来る時は来るって手紙くらいかけないの?!」
第一声から叱られた。
ヤシロは必ず、ご丁寧に実家の函館に帰るとき手紙をくれて、
何日頃、札幌に会いに行きます…とか書いてくるのだ。
「ふ・・。」
なぜだか、父親に似たこの男とは父親と同じムカつきが湧く。
それが、重たいものをしょってるときにはいつも楽だった。

「バイクで何で来たのよ?私、ミニ・スカートだし、そんなの乗れないし。」
「乗れるって」
「無理。」
「あんたどんだけ、どんくさいの?」
「見ればわからない?普通〜・・極限までじゃない?」
「ゲ〜。でも乗るくらいならだれでもできるって」
「無理!」
「いいからメットも持ってきてるから大丈夫だって。」
「ゲ〜!無理!」

押し問答の末に、乗ることになった。

思いのほか前が見えない。
思いのほか前にずっていく。
思いのほか実感がない。

おまけに「ヤシロの腰まわり」がいやだ。・・・

わがままになるにつれて楽になってきた。
ようやく、東京の夕暮れが気持ち良くなってきた。

「ちょ〜っと!?この川、なんて川?!」
「あ?!」
「この川の名前何って聞いてんの!」
「あ〜?!知らないの?!」
「知るわけないでしょ?!」
「荒川!!」
「あ〜、有名だね!?」・・・・・

そんなこんなで、ぎゃあぎゃあ、いつものようにヤシロと揉めながら、
荒川沿いに走って、ヤシロのアパートを目指した。

が、
その前に上野駅に寄った。
「帰省の切符買うから・・。」
「ゲ〜!汽車で帰えんの?!」
「そうだよ」
「マジ〜、自分には無理〜〜!」
「いいから黙ってここで待ってれば?!」
「もし、バイク倒したらどうすんの?」
「あんたが倒したならあんたが起こせば?」
「え〜!無理!」
「したっけ、倒さなきゃいいんじゃない?!」
「ち。・・・」

一人になってバイクから離れた。
倒したらやだからだ。
メットも置いてきた。
でも誰かにとられても困るので、そう遠くへは行けない。

「なんか、なんか、すんごくすっとする!」

わがままに自分がなれるなんて奇跡的なくらい、ヤシロは父親と同じ
いやな笑い方をする。
そう思うと、ざまあみろな気がした。

それにしても、
自分のパーソナリティが崩壊して行くような感じだが、
これくらいやらないと、あの人たちに立ち向かう力も湧かないってもんだった。

ヤシロが帰ってきた。
「行くぞ〜!お前、何、ひとのバイクブン投げてんの?!
し〜んじらんない!!」
と、ぶーぶー叫んでいた。

その時、走りだして、「あ?!」と思った。
「ちょ、・・ちょっと止まった!」
「何?すぐは止まれないって!」
「靴落とした〜〜〜!!」
「何?!馬鹿?!あんた!!!!」
ぎゃあぎゃあ怒られながら、戻った。

そこには、
「ころん。」
と赤い靴が一つ落ちていた。

「バカバカバカバカ!!どんくさいの極み!!あ〜!はずかしい!!」

ヤシロに言いたい放題に馬鹿にされてののしられた。

ホントに泣きたくなった。・・・・

コロン、と転がった赤い靴が、なんだか、精一杯やって転げ落ちたように見えた。

それを、履いて叱られながら、
東京はやっぱり嫌いだ・・と思った。
無理!って言ったのは自分がどんくさいからじゃないか。
そんなに叱らなくたっていいのに。

上野駅前だなんて、あんまり田舎くさすぎるじゃないか。

      (つづく)
| エピソード・メモリー | 10:57 | comments(0) | trackbacks(1) |

純愛〜1981年の思い出〜

純愛〜1981年、まだ街にPUNKとスカ・ビートが流れていた頃〜
        (第14話)

リーダーに電話で確認が取れたので、
私はそのまま、東京に行くことだけを進めていた。
あとは現地で何とかしようと思ったのだ。

行く日は、週末の金・土・日で、私の誕生日がまたがる時を選んだ。
私は何かに挑む時、いつも
「グッド・ラックを考える人だ。」
誕生日というのは天が祝福してくれるはずだと祈りを込めた。

目的はベースの子が住みついたところを確認し、
なぜ、東京に居なくてはいけないか、を問答し
更に、できれば理由を聞き出すことと、
彼女に一人ぽっちではない、と伝えることだった。

お給料をはたいて、「東京代」にあてた。
一か月の労働がふいになる瞬間だったが、
後悔はしないと思った。

誕生日の前日の朝、
ボストンバッグを持って居間に降りて行った。
平和な朝だった。
父親が「お前、どこ行くんだ?」と聞いた。
「う〜ん、ちょっと、東京。」
と答えた。
「そうか」
父親は何も考えずに能天気に答えた。

その日常と私がしようとしていることの
「何というか馬鹿くささ」
が、不釣り合いだった。

自分も何げなくこの朝の空気に居れば、
きっと何も起こらないのだろう・・・・。

それでもいつも、マイナスの方を選ぶ癖がある。
自分にマイナスでも誰かにとってプラスになるなら・・
というのが私の性分だ。
偽善ではなかった。偽善でやりきれるほど楽なことではないのだ。

とぼとぼと、空港に向かう。
新しい靴を用意した。
靴ずれを起こすほど歩くかもしれないが、
「赤い靴」
をこの日のために用意した。
「異人さんに連れられて行っちゃった・・・」
と歌いながら、それを履いて、戦闘態勢は「ON」になった。

午前中の飛行機に乗る。
千歳を飛び立った飛行機は快晴の空の下、
全部をクリアリーに映し出した。
北海道の地形がはっきりと見え、雲一つなかった。
そうして、下北半島が見えてきて、津軽海峡を越えた。
リアス式海岸が見えてきた?…と思ったら
雲だらけになった。

つまらないので、週刊誌をもらって読み始めた。
私はあまりふだんこの手のものは読まないのだが、
暇つぶしに気が楽になるものを読みたかった。
ディ―プなものを読みたくなかったのだ。・・・

「え?!」
開いたページに突然、リーダーの姿があった。

「ここまで来た!ニッポンのロック!!」
センセーショナルなタイトルに添えられた汚らしい言葉の見出し。
「世も末」と書いてあった。
化粧をしたリーダーのすごい顔と姿が載っている。
「ありとあらゆる汚さの果てとでも言おうか、ここまで来たら、
日本のロックはもうおしまいではないのか??」
みたいな記事だ。・・・・・

その記事を読みながら寒気がした。

「・・申し訳ないな〜何も力になれなくてすまんな。」
リーダーの人のいい声と笑顔が浮かんだ。

「私は何をしに行くんだろう?・・・」

何が真実で何が本当かもわからなくされている世界に、
なぜ私は向かっているのだろう???

外を見ると、泣いているような雨が窓をたたきつけていた。
もうすぐ、羽田に着くと、アナウンスが入った。

気は果てしなく重い。

私ごときが何かできる世界なんだろうか?そこは。
週刊誌のような目にさらされ、危険分子だと言われ、ののしられる世界で
私にいったい何ができるのか?・・・

東京…と、心の中で呟いた。

私が見ていないすべてのもの。
私が知らないすべての事情。
どこまでか食い込んでいって、何があるのか。

答えは分からないまま、エアポート・リムジンに乗り込んだ。
蒸し暑い。
札幌ではもう過ぎた「盛夏」が、まだここにはある・・・。

     (つづく)
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